創薬技術を用いた高機能化粧品の開発

■はじめに

 ここでは、本研究室で行っているドラッグデリバリーシステムを利用した高機能化粧品開発の研究を紹介しています。経皮デリバリーに利用するS/O化技術を用いて、皮膚の色素沈着 (色が黒くなること) を防ぐ効果をもつアスコルビン酸誘導体を成分にした化粧品の創製を目的としています。

■皮膚の構造とメラノサイトの働き

 人の皮膚は総重量9 kg程度であり、生命維持の一端を担っています。皮膚の構造は、外気に当たる部分の表皮 (厚さ約100 mm) 、毛細血管が存在し始める真皮 (厚さ約2 mm) 、血管へとつながっている皮下組織の三つに大分されます。さらに表皮の空気に触れる部分10-15 mm程度の厚さの部分は角質層と呼ばれ、生体内にウイルスをはじめとする異物を入れないためのバリアー機能を持っている疎水性の組織です (Fig.1)。そのため、親水性の物質を皮膚に塗布しただけでは、皮膚内部へと運搬されることが望めません。
 また、表皮と真皮の境目付近にはメラノサイトという部分が存在します。皮膚が太陽紫外線を浴びた場合、皮膚中のチロシンがチロシナーゼという酵素により、ドーパ、ドーパキノンを経てメラニンへと変化し、皮膚の色素増加が起きることが知られています。メラニンが生成されるところをメラノサイトと呼んでいます。



Fig.1 皮膚の構造とメラノサイトについて



Fig.2 リン酸アスコルビン酸マグネシウム

■リン酸アスコルビン酸マグネシウムについて

 リン酸アスコルビン酸マグネシウム (以下AA-PMGと省略) は通常ビタミンCとして知られているアスコルビン酸の誘導体です (Fig.2)。アスコルビン酸はメラノサイトに存在するチロシナーゼの働きを抑制する役割を持っており、メラニン色素ができることを防ぎます。現在、化粧品 (とりわけ美白効果) として注目が集まっていますが、加水分解しやすく扱いが困難という問題点があります。そこで、本研究では、水に溶解中でも安定であり、類似の効果を有するAA-PMGを利用しています。

■アスコルビン酸誘導体の経皮デリバリー

 リン酸アスコルビン酸マグネシウムを用いたAA-PMG S/O製剤をin vitro系において豚の皮膚へと塗り、24時間後の状態を蛍光顕微鏡により観察しました (Fig.3)。角質層を通過して、表皮全体へと透過が進んでいることがわかります。比較対象として、界面活性剤と共に混合しただけのものを用いています。それぞれを塗ってから24時間経過した皮膚の中に存在するアスコルビン酸誘導体の浸透状態には明らかに差があり、S/O製剤化することで多くのアスコルビン酸誘導体が表皮全体へ送り込まれることがわかりました。
 このように、リン酸アスコルビン酸マグネシウムにS/O化技術を用いたことにより、表皮へと送り込むことが可能な高機能化粧品を作り出すことができるようになりました。



Fig.3 アスコルビン酸誘導体S/O製剤塗布より24時間後の皮膚中の観察