DDS班

・はじめに

 ドラッグデリバリーシステム(Drug delivery system ; DDS)とは、薬物の体内での動きを精密にコントロールすることによって、最適な治療効果を得ることを目的とした技術です。我々のグループでは、親水性薬物を体内の目的部位へ効果的に送達するための微粒子キャリアーの開発を行っています。微粒子キャリアーには高分子マイクロスフェア・ナノスフェア、リポソーム、エマルション、高分子ミセル等ありますが、我々は主に界面活性剤と油で形成されるエマルションを利用しています。


・エマルション

 昔から、仲の悪いものを「水と油のようだ」というように、本来、水と油は混ざらない液体です。ところが、界面活性剤を加えてかき混ぜると水と油のどちらか一方が細かい粒子になって、他方の液体中に分散した白濁溶液ができます。これが、エマルションです。エマルションは、食品、医薬品、化粧品と様々な分野で利用されています。分散している粒子が油滴の場合Oil-in-water (O/W) 型エマルション、水滴の場合をWater-in-oil (W/O)型エマルションといいます。また、O/W 型エマルションの油滴中にさらに水滴が分散したWater-in-oil-in-water (W/O/W)型エマルションも多く利用されています。


・本研究室における研究

インスリンの経口投与型製剤の開発
  糖尿病治療薬であるインスリンは一般的に注射で投与されています。これは注射することで、効果的に血糖値を下げることができるからです。しかし、注射での投与は患者に苦痛を与えます。もし、口から飲むことができれば、服用が楽になります。ところが、インスリンのようなタンパク質製剤は、胃や腸で分解されやすいといった欠点があります。一般的に、親水性薬物はWater-in-oil-in-water(W/O/W)型エマルションの内水滴に封入されます。しかしながら、タンパク質製剤であるインスリンは、水に溶けた状態よりも固体状態の方が安定に存在できます。さらに、W/O/W型エマルションは内水滴の存在により、微小(数百nm)な粒子調製が困難です。そこで我々はインスリンをO/W型エマルションの油滴の中に分散させた新規Solid-in-oil-in-water (S/O/W)型エマルションを開発しました。これは、本研究室において、酵素工学の研究で用いられている技術(酵素班)を応用したものです。元来インスリンは水溶性であるために油相中には溶かすことが困難です。そこでインスリンを両親媒性物質である界面活性剤で覆いました。これによりインスリンの親油性が向上し、油滴中に分散させることが可能となります。また、油として植物油を用いることで、小腸に存在する酵素によって分解され封入物を放出させることができるようになります。


研究成果

1. E.Toorisaka, H.Ono, K.Arimori, N.Kamiya, M.Goto, Hypoglycemic effect of surfactant-coated insulin solubilized in a novel solid-in-oil-in-water (S/O/W) emulsion. Int. J. Pharm., 252, 271-274 (2003)
2. 通阪栄一,神一優子,神谷典穂,後藤雅宏、W/O/W型多相エマルション中に封入した抗ガン剤塩酸イリノテカンの漏洩機構、化学工学論文集,第29巻,第2号,pp.294-297 (2003)

3. E. Toorisaka, M. Hashida, N. Kamiya, H. Ono, Y. Kokazu, M. Goto, An enteric-coated dry emulsion formulation for oral insulin delivery. J Controlled Release, in press (2005).

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