核酸-酵素ハイブリッド

 私たちはバイオテクノロジーの中でも、分子認識、発光、触媒機能などを有する機能性生体分子に注目し、さらなる機能化を目指しています。特に注目しているのが、分子認識機能を有する核酸と触媒機能を有する酵素を組み合わせた核酸-酵素ハイブリッドです。一般的に核酸は二本鎖DNAの形態で遺伝子情報を保持しているというイメージがありますが、DNAの中には標的分子に対して特異的な親和性で結合する一本鎖DNAが報告されています。この一本鎖DNAはDNAアプタマーと呼ばれ、その結合性及び阻害特性が既存の抗体医薬品に匹敵するものも存在することから、医薬品MacugenRが市販されるに至っています。さらに、DNAの大量合成及び修飾操作の容易さ、分子サイズの小ささから、抗体と並ぶ次世代生体分子材料として期待されています。また、後者の酵素は、基質と酵素反応をさせることでシグナルを生成することができるため、前者の分子認識素子である核酸と組み合わせることで、分析試薬、診断薬として機能するハイブリッド分子を創製が可能です。

 酵素を利用した部位特異的反応

 このように優れた特性を持つDNAアプタマーと酵素をハイブリッドすることで次世代分析試薬の開発は可能ですが、ハイブリッド化する際に両者の機能を損失しないように、DNAの配列保護、酵素の活性サイト保護ができるような手法が必要となります。そこで私たちが開発したのがターミナルトランスフェラーゼ (TdT) と微生物由来トランスグルタミナーゼ (MTG) を組み合わせて特定のペプチド間 (3’-末端グルタミン残基とN末端リジン残基) で縮合を行い、部位特異的な結合形成で機能配列と活性サイトを保護するという手法です。 この手法で、血栓形成や血液凝固に関わる医学的に重要な標的、トロンビンの高感度な検出に成功しています。

J. Shimada, T. Maruyama, M. Kitaoka, N. Kamiya, M. Goto, Anal. Biochem., 421, 541-546 (2012)
M. Takahara, K. Hayashi, M. Goto, N. Kamiya, J. Biosci. Bioeng., 116, 660-665 (2013)